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大阪高等裁判所 平成12年(ネ)149号 判決 2000年12月08日

控訴人(一審原告)

新明和リビテック株式会社

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

岡時寿

明賀英樹

中村良三

黒田一弘

被控訴人(一審被告)

株式会社カリタジャポン

右代表者代表取締役

【B】

右訴訟代理人弁護士

浜田正夫

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、金一億〇〇五五万八八九六円及び内金七七五五万八九九六円に対しては平成九年七月八日から支払済みまで年六分の割合による、内金二三〇〇万円に対しては平成九年八月二〇日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。

3  被控訴人は、原判決別紙取引先一覧表記載の各取引先(本件取引先)に対し、原判決別紙記載の謝罪文を一回発送せよ。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

5  2項につき仮執行宣言

二  被控訴人

主文と同旨

(以下、控訴人を「原告」、被控訴人を「被告」という。なお、原判決別紙「事実及び理由」〔横書き〕の引用に当たり、「上記」を「前記」と改めたり、アラビア数字を漢数字に改めることなどをしない。)

第二事案の概要

一  被告は、被告が輸入する化粧品について原告と販売代理店契約を締結していたが、原告が自社の化粧品を開発し、被告の他の代理店等に購入を求めたことを理由として、原告との代理店契約を解除し、商品の供給を停止するとともに、他の被告代理店等に原告の商品開発をめぐる状況を内容とする通知をした。

本件は、原告が被告に対して、①被告による契約解除は無効であり、商品供給の停止は代理店契約の債務不履行に当たるとして、それに基づく損害賠償を請求するとともに、②他の被告代理店等に対する通知が不正競争防止法二条一項一三号の不正競争行為又は不法行為に当たるとして、それに基づく損害賠償及び謝罪広告を各請求した事案である。

原判決は、原告の請求をいずれも棄却し、原告が控訴を提起した。

二  基本的事実関係

基本的事実関係は、原判決別紙「事実及び理由」第3(二頁五行目から一〇頁一一行目まで)に記載されたとおりであるから、これを引用する。

なお、その要旨は、次のとおりである。

1  被告は、フランスの化粧品会社カリタの化粧品等の輸入・製造・利用等の全権を有していたが、昭和五三年九月一八日、原告との間で、被告の輸入に係るフランス・カリタ・エステティック基礎化粧品の日本国内における販売の権利及び義務を原告に譲渡する契約を締結した。

2  昭和六〇年一〇月一日、被告と原告は1の契約を改訂し、原告が日本国内における販売権を被告に返上するとともに、被告は、フランス・カリタから輸入するカリタ基礎化粧品とその業務用化粧品、カリタメイクアップ化粧品、カリタキャピレール製品とその業務用化粧品について、原告を、日本国内美容ルートにおける唯一の販売元であることを認め、原告に対して同商品を継続して売り渡す旨の契約を締結したが、右契約には、右取扱商品と同種又は類似の他社商品についての販売をしてはならない旨の条項(類似商品販売禁止条項)が明記されていた。

3  平成六年三月二五日、原告と被告は、「カリタ化粧品事業転換に関する協定書」により、2の契約を平成六年三月三一日限りで解除し、翌四月一日から被告を日本国内の美容ルートにおける唯一の販売元とする旨合意し、これに基づき、平成六年四月一日、基本契約(本件基本契約)を締結し、被告は、同契約の定めるところに従い、被告商品(カリタ化粧品及び関連する商品)を継続して原告に売り渡し、原告はこれを買い受けて被告の販売代理店として取扱サロンに販売するものとすることとされたが、右契約には、類似商品販売禁止条項が記載されていなかった。

4  原告商品の営業販売活動と被告による基本契約の解除

(一) 原告は、平成九年五月二〇日、東京全日空ホテルにおいて、原告が美容ルート販売元時代の系列代理店を集めて、「新明和リビテック株式会社化粧品代理店大会」を開催し、原告の開発にかかる新規エステティック化粧品「AUBRY DECENCE(オーブリー デサース)」を発表し、同商品(原告商品)の営業販売活動を開始した。

(二) これに対し、被告は、翌二一日、原告に対し、原告商品の販売を中止するよう申し入れたが、原告はこれを拒絶した。

(三) そこで被告は、同月二九日ころ、原告に対し、原告商品の販売は、①原告が負っている類似商品取扱禁止義務に違反していること、②カリタ化粧品のノウハウを盗用する行為であることを理由に、原告商品の販売の即時中止及び本件基本契約を即時解除する旨の通知を行った。

5  平成九年五月二九日、被告は、カリタ化粧品取扱サロンに対して、「カリタ化粧品のお取引先変更についてのご案内」と題する通知を行い、その中で、原告と取引を停止したので、今後カリタ化粧品の取引は被告が直接取引をするようになると述べ、更に、原告の取引先である代理店(本件取引先)に対し、「新明和リビテック株式会社取扱化粧品の弊社対応についてのご報告」と題する通知を行い、その中で、原告化粧品及びその販売システムが、カリタ化粧品のそれに類似していることや、原告が、元カリタ化粧品の総販売元・総代理店の立場を利用し、原告商品をカリタの流通システムに売り込む行為は、被告に対する営業妨害行為であるなどと述べた。

6  原告は、平成九年六月二日、被告に対し、総額五六九万円余りに相当するカリタ化粧品の購入を発注したが、注文後数日しても、被告が商品を納入しなかったので、同月一三日、注文商品を供給するよう催告した上、同年七月七日、本件基本契約を将来に向かって解除する旨の通知をした。

三  争点

1  被告による債務不履行の成否

2  被告がカリタ取扱サロン及び代理店に対して行った各通知(前記引用に係る原判決別紙「事実及び理由」第3の3(4)ア及びイの通知)は、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知するもの(不正競争防止法二条一項一三号)か。

3  被告の前記各通知が原告に対する不法行為を構成するか。

4  損害額

四  争点に関する当事者の主張

1  争点に関する当事者の主張は、次項に付加するほか、原判決別紙「事実及び理由」第5(一〇頁末行から三〇頁九行目まで)に記載されたとおりであるから、これを引用する(ただし、二九頁六行目の三四五万五五〇〇円」を「三四五万五〇〇〇円」に、同頁一〇行目の「二〇〇〇万円」を「二三〇〇万円」にそれぞれ改める。)。

2  当審における原告の主張の要旨(いずれも争点1に関するもの)

(一) 事実誤認

(1) 販売代理店としての管理義務の不存在

原告は、被告に対し、本件基本契約において、類似商品販売禁止義務を負わないし、原告が被告商品のみを専属的に販売する義務も負わない。したがって、平成六年四月一日以降、原告が、被告の販売代理店として、全国に散らばるサロンを管理し、サロンが被告商品の取扱いを継続するよう務めるという意味での管理義務を負うことはなく、一販売代理店として取引先であるサロンを対象に被告の商品の供給を行うという極めて限定された役割を果たすに過ぎない。

(2) 利益相反の不存在

原告商品は、市場動向をもとに、「①エステティック化粧品、②フランス製、③並行輸入品が発生しない、④品質高級、価格帯中級~中級上」をコンセプトとして開発されたものである。特に、価格については、被告商品の方が、原告商品よりも約二割から五割程度高く、原告商品と被告商品とではターゲットとする客層が異なる。

また、原告商品は、美容ルートに限定し、デパートでの販売を行わないものであり、販売ルートも異なる。

以上から、原告独自による原告商品の販売活動自体に利益相反は存在しないと考えられる。

仮に、利益相反の可能性があるとしても、原告が他の代理店を管理する義務はないから、原告の顧客以外の代理店との関係では、利益相反はあり得ず、また、原告の顧客であるサロンは、全サロンの約五分の一である一〇〇店に過ぎないので、重大な利益相反が起こることもない。

(3) 類似性判断の基準時

原告商品と被告商品の類似性の有無については、原審で述べたとおりであるが、類似性を判断する基準時については、原告商品の販売が開始された平成九年五月当時における被告商品と対比すべきであって、平成二年ころの被告商品と対比しても意味はない。

(二) 契約及び法令の解釈の誤り

(1) 基本契約の解釈の誤り

原判決が、利益相反の程度が重大であることの判断基準について何ら示すことをしないまま利益相反であると認定したことは不当であり、本件基本契約において類似商品販売禁止義務が課せられていないとしながら、本件基本契約の前文から「被告の利益を害する利益相反行為を行わない」という義務を負うと解釈したことは、矛盾する判断で、本件基本契約の前文の解釈を誤ったものである。

本件基本契約の前文の文言は極めて抽象的であり、本件基本契約の各条項の解釈指針ないし精神条項としての意味しかなく、また、利益相反という場合における、法的保護に値する意味を有する「利益」の記載はない。

(2) 解除の要件である催告の欠缺

被告の行った本件基本契約の解除は、原告に対する催告を何らすることなく行われたものであって、解除手続に重大な違法があるから、被告による本件基本契約の解除は無効である。

当事者間の信頼関係を基礎として継続的な契約関係が形成されている契約であっても同様である。

(三) 弁論主義違反

被告は、原告が、被告商品と類似している原告商品を、現在も強い影響力を有している被告の系列販売代理店に売り込む行為が信義則に反するという主張しているだけであって、原告の販売活動が利益相反行為に当たり、かつその違反の程度が重大であるという主張をしていない。にもかかわらず、原判決が、原告の行為が利益相反行為に当たると認定したことは、弁論主義に違背する。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、争点1、2、3についての原告の主張を認めることはできず、原告の本件請求はいずれも理由がないものと判断する。

その理由は、次項以下に付加訂正するほか、原判決別紙「事実及び理由」第6(三〇頁一〇行目から五四頁末行まで)に記載されたとおりであるから、これを引用する。

二  原判決の訂正等

1  原判決別紙「事実及び理由」三七頁一行目の「すぎない上」の次に「(女性化粧品は取り扱わないというニュアンスはあったとも供述するが、右供述は具体的でなく、一方で、扱わないとは言っていないと明言している。)」を加える。

2  同三七頁一〇行目の「平成六年度」から一四行目の「出された」までを削る。

3  同三八頁九行目、一〇行目の「既得的地位を放棄する代償」を「投下資本を考慮した上での営業補償」と改める。

三  原告の当審主張についての判断

1  販売代理店としての管理義務の存否について

原告は、平成六年四月一日以降、被告の販売代理店として、全国に散らばるサロンを管理し、サロンが被告商品の取扱いを継続するよう務めるという意味での管理義務を負うことはなかったと主張し、甲三一を提出する。

たしかに、前記引用に係る原判決(別紙「事実及び理由」第6の1(2)ア)記載のとおり、原告は、以前、他の販売代理店に対し、被告商品に関する情報を提供し、講習会やキャンペーン等を実施して販売促進活動をしたり、サロンに関する情報を収集したりすることによって、全国のサロンを管理していたが、平成六年四月一日以降は、少なくとも他の代理店を通じて、その傘下のサロンに対する管理をすることはなくなったことが認められる(甲三一)。しかし、それ以前においても、被告としては、原告や他の代理店を通じて全国のサロンを管理し、個々の代理店も、その傘下のサロンを管理していたというべきである。原告が一代理店となり、他の代理店が被告と直接取引するようになった後、前記販売活動やサロンに関する情報の収集などがとりやめられたような事情は窺えず、原告を含む各代理店は、従来どおり、販売促進活動やサロンに関する情報の収集などにより、傘下のサロンを管理し、サロンが被告商品の取扱いを継続するよう務めることが、被告との代理店契約の前提となっていたと認めることができる。

2  利益相反の存否について

(一) 原告は、原告商品の顧客層や販売ルート、商品のコンセプトが、被告商品と全く異なることなどから、利益相反は生じないと主張する。

しかし、前記引用に係る原判決(別紙「事実及び理由」第6の1(3)ウ)記載のとおり、原告商品は、被告商品とむしろ類似しているというべきであるところ、このような類似する競合商品より価格を低めにした場合、競合商品の顧客を奪う傾向を有することは経験則上明らかというべきである。原告は、商品を低価格にすることは、最終的なサロンにおけるエステ料金に反映され、サロンを利用したくても高額なため利用をあきらめていた潜在的利用者(消費者)層をターゲットとして、原告商品の価格を低く設定したともいうが、結局は、原告商品の消費先は、サロンであって、右のことにより潜在的利用者層を獲得するだけでなく、既存のサロン利用者を奪うことになると考えられる。

したがって、原告が、美容ルート販売元時代の系列代理店を集めて、原告商品の営業販売活動を始めた行為は、利益相反性が強いというべきである。

(二) また、原告が、平成六年四月一日以降、被告の一代理店に過ぎず、他の代理店及びその傘下のサロンを管理する義務がないことは原告主張のとおりであるが、原告が、他の代理店に直接働きかけて、原告商品の営業販売活動を行うことは、原告傘下のサロン以外のサロンにおける被告の顧客を奪うことになり、利益相反する行為であるといわざるをえない。

のみならず、原告の顧客だけに限っても、その数は、全サロンの五分の一を占めており、僅かな割合ということはできず、利益相反についての右認定が異なることはない。

3  類似性判断の基準時について

原告は、原告商品と被告商品の類似性を判断する基準時については、原告商品の販売が開始された平成九年五月当時における被告商品と対比すべきであって、平成二年ころの被告商品と対比しても意味はないと主張するが、前記引用に係る原判決(別紙「事実及び理由」第6の1(3)ウ)記載のとおり、原告商品は、平成二年ころの被告商品と類似すると認められるところ、その後、被告商品の構成が一部変更されたが、その程度は、スキンケアメソッドを、「2+1」から「3+1」の構成に変更したこと、一つの商品が廃番になったという程度であり、その他の類似性を認めるべき事情についての変更はなく、平成九年五月当時においても、原告商品は、被告商品に類似していることに変わりはないというべきである。

4  基本契約の解釈について

原告は、本件基本契約前文は、精神条項の意味しかなく、右前文を理由に契約を解除することはできないと主張する。

たしかに、本件基本契約前文のみから特定の義務を導き出すことはできないと考えるが、本件基本契約は継続的商品供給契約であって、利益相反行為の禁止は右契約関係存立の前提となると考えるべきところ、右前文は、そのような解釈の指針となるべきものであり、単なる精神条項とはいえないから、原告の主張は理由がない。

また、原告は、前記利益相反の程度についても争うが、原告は、被告商品の販売ルートである同じサロンにおいて、被告商品と類似し、しかも、被告商品より価格の安い原告商品を販売しようとしたのであるから、原告の右行為は、被告商品を閉め出し、被告商品の顧客を奪うおそれの高い行為というべきであり(原告は、顧客層が異なると主張するが、この主張を採ることができないことは前述のとおりである。)、その利益相反性は明らかであり、重大であるというべきである。

さらに、原告は、本件基本契約において、類似商品販売禁止義務を否定したにもかかわらず、同契約の前文から利益相反行為を禁じることは、矛盾した解釈であると主張するが、本件で利益相反行為に該当するとされた原告の行為は、本件基本契約の前提となる信頼関係を覆す背信的な行為であり、単なる類似商品の販売とはその趣を異にするといわなくてはならず、類似商品販売禁止義務を否定したことと利益相反を認定したこととは矛盾しないと考える。

5  催告の要否について

原告は、本件基本契約の解除が、原告に対する催告なしになされたため、解除は無効であると主張する。

しかし、右解除は、原告の利益相反行為により本件基本契約の前提となる信頼関係が失われたことを理由とする解除である上、その利益相反性の程度が重大であることを考えると、解除の前提としての催告は必要ないと解される。

6  弁論主義違反について

原告は、被告が、原告の販売活動を信義則違反と主張しているだけであって、原告の行為が利益相反行為に当たるなどという主張をしていないから、原告の行為が利益相反行為に当たると認定することは弁論主義に違背すると主張する。

しかし、本件の審理経過に照らすと、被告は、利益相反行為という文言自体を用いていないとしても、原告の販売活動が信義則違反であることを主張する中で、利益相反行為を基礎づける具体的事実を詳細に主張し、これに対する原告の反論も十分になされていることが認められるから、原審の認定が弁論主義に違反するということはできず、原告の主張は採用できない。

四  結論

以上によると、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却した原判決は相当である。よって、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき、民事訴訟法六七条、六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鳥越健治 裁判官 若林諒 裁判官 山田陽三)

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